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ウエムラアキコの朗読教室
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文は人なり ……ビュフォン伯
投稿日 2024年9月19日(木)
国立国会図書館デジタルコレクション
「新文章講座 第二巻」《文章練習法》より
先日、犬の散歩中に近所で落し物を拾い、とある場所にお届けしましたところ、持ち主の方が電話をかけてきてくださいました。
着信時、私は仕事中で気付かなかったのですが、留守番電話にメッセージが残されておりました。
聞いてみますと、その方のお話の仕方があまりに奥ゆかしく、きちんとされているので、驚きとともに近頃忘れかけていたほのぼのとした心地を思い出させてもらうようでした。
名前、用件、謝辞、そして改めてかけ直します、という結び。
お若い世代と思われるその方は、言葉遣いが美しいだけでなく、順序正しく整理し、要領よくお話しされました。
録音を聞き終わると、
ご立派な方!完璧な留守番電話だわ!
と、思わず声に出して感嘆していました。
一人で急に喋ったので犬が驚き、私の顔を見上げます。
面識も無い方に、このような勝手な思いを抱くのは図々しい限りですが
どこに出しても恥ずかしくない方だわ!
と、卒業生でも見送ったあとのような、晴れ晴れとした心になってしまいました。
その日はあいにく一日仕事と私用で立て込んでいましたので、再びお電話をくださっても、またも失礼してしまうかもしれないと思いましたから、簡単な文章のメッセージをお送りしました。
すると、対する返信メッセージがあり、尚またこれが誠実で好ましい文面でしたので、先程のほのぼのした気持ちに幸福感が上乗せされました。
丁寧なお詫びやお礼とともに、どういった経緯で落としてしまったのか、また、再びこのようなことがないようにしますという反省の弁、折目正しい結びの挨拶まで述べてあり、随所に真面目なお人柄が偲ばれる文章でした。
更に、見た目にも分かりやすい文面で簡潔に記されています。
整然とお話できる方は、メッセージ文も綺麗だなあと感心することしきりです。
いちばん嬉しかったのは、録音に残された
「ありがとうございました」
とおっしゃるその声です。
声から心底の謝意が聞こえてくるのです。
電話の向こうで深々とお辞儀をしている姿が見えるようでした。
常日頃からの、感謝を忘れない謙虚な生き方が真っ直ぐ伝わってくる声でした。
言葉は人なり
文は人なり
胸が熱くなりました。
令和六年中秋