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言葉は玉虫色?ーーー無言の帰宅

投稿日 2025年10月6日(月)

先日ネット記事で、五十代お笑い芸人が放送番組内で発したという以下のような意見を読みました。

【なんか変やなって、ちょっと違和感を感じた」と切り出して「子どもが生まれたので出生届を出しに行ったら、『枠内を全部書いてください』『書きましたか』『書きました』『ここ書けていませんよ』と言われたところが、宛名だった。そこに『区長殿』と書かれていた。市民が子どもが生まれたら出生届を出す、『これ書いてくださいね』って言っている職員が自分の長のことを『殿』って書いた書類を……。不思議やなって」と明かした。続けて「『何々へ』とか『何々行』と書かれているのを、こっちはいやいやお世話になっていますからって、斜線を引いて『様』『殿』に書き直すならわかるんですけど。職員が自分のところの長のことを『殿』って書いたところに書けって、不思議なシステムやなって思った。なんかそれが全てを表している感じが……。それを何の違和感もなく、職員の方も提出させてはる感じが不思議やなと思った」と語った。】(『ABEMA的ニュースショー』より)

「殿(どの)」は人名などにつけて敬意を表す言葉ですが、現代においては主に書面での形式的なものに使われ、日常接することは多くありません。実は鎌倉末期には官職(地位)の無い人物に対して軽い敬称として「殿」が使われたという歴史的な背景があり、現在では「様」をより上位として付けるのが習慣です。私はこれを若い頃「手紙の書き方辞典」(タイトルは覚えていませんが)のような本で知り、その後勤め先で上司から年賀状の宛名書きを頼まれた折にも「『殿』は目下の人に使う敬称だから書かないでね」と言われましたので常識かと思っていましたが、ひょっとしてこの考えは古いのかと、このたび念のため辞書をひきましたところ、やはり認識は変わっていないようでした。

また最近「無言の帰宅」という言葉がSNS界隈を騒がせているとのこと。何かと思ったら、行方不明だった人がご遺体となって発見されたという旨を家族が「ご心配おかけしてしまい申し訳ありません。夫見つかりましたが、無言での帰宅となりました。(原文ママ)」と報告したところ、「これだけ心配かけといて無言とか頭大丈夫?」「無言?まずは謝罪だろうが!」とリプライした人たちがあったというのです。(ご参考までに…辞書には「無言の帰宅」の項目はあるが「無言での帰宅」は無い)そして今度は「無言の帰宅」の言い回しが【遺体になって家に戻ること】という意味だと知らない人たちが知っている人たちから叩かれ、次いで今度は叩く人に苦言を呈す人が現れ…とつぎからつぎへと言い合いが続いているようなのです。

青空文庫の検索エンジンで「無言の帰宅」と入力しても一件もヒットしません。サイトNHK放送文化研究所内で調べると【戦時中の新聞紙面をみると、「無言の凱旋(がいせん)」「声なき凱旋」といった表現が度々でてきます】という記述がありました。そこでもう一度青空文庫で「声なき凱旋」と入力した結果2件ヒットし、そのひとつは昭和二十七年に著された壷井 栄作「二十四の瞳」の文中『声なき「凱旋兵士」』という一文でした。

次に国立国会図書館デジタルコレクションで「無言の帰宅」を検索したところ、何百件もヒットしました。その中で一番古い著作は昭和12年出版・中原荒太郎 作「雛けし」で、十六歳で他界した娘のことを記した書の見出しでした。これだけではいつ頃からこの「無言の…」の句が使われ始めたのかまでは不明ですが、著者・中原荒太郎氏は、福岡日々新聞(現・西日本新聞)の久留米支局長であったことから、先のNHK放送文化研究所の記事も照らすと、もとは戦没者を隠喩する新聞記事独特の表現だったのかも知れません。

話は逸れますが、新聞記事で頻繁に使われる言葉として、特に毎日・読売・朝日の社説で多いのが、

「~すべきだ」「~したい」で、読売は他紙より「必要がある」の使用頻度が高いそうです。(参考:幻冬社plus)また、慣用句には誤謬だったものがいつしか市民権を得たような例が沢山あります。とは言え、国が定めた言葉の意味の決まりはなく、文化庁では正誤の見解は示していないそうです。

詳しく知りたい方はWikipediaで日本語の誤用」「慣用読みと検索してみてください。我流例があります。

さて問題です    

1 ことわざ「情は人の為ならず」の 意味は?

2 「ききいっぱつ」 を 漢字で書くと?

3 「輸入」 「輸出」 の 本来の読み方は?